この小説、なんとジョグジャカルタのプランバナンが作中の一つの舞台になっているんですよ!
ジョグジャカルタ在住の僕にはなんとも、趣深いというか、なんというか、、
小説の舞台の場所でその小説を読むって最高の贅沢じゃないですか!!
そんなことは置いといて、この小説!とにかく面白くて最高です!
本の紹介
利権聖域 ロロ・ジョングランの歌声
菜々美の従兄・稔は8年前、新聞記者として赴任したインドネシアの東ティモール独立紛争に巻き込まれ死亡した。
最後の便りはロロ・ジョングラン寺院の写真だった。
週刊誌記者となった菜々美は、インドネシア・中部ジャワ地震の現地取材で、NGOボランティアや国際開発コンサルタントの日本人と出会い、国際協力の裏側を知る。
稔の死に芽生えたある疑念とは。国際援助のあるべき姿を問う、第1回城山三郎経済小説大賞受賞作。
著者: 松村美香 さん
東京生まれ。中央大学卒業後、筑波大学大学院で修士(経営学)を取得。国際開発コンサルタントとして、カンボジア、インドネシア、モンゴル、エチオピア、ネパールなどの途上国で、政府開発援助(ODA)等の事前開発調査に従事。本書で、第1回城山三郎経済小説大賞を受賞。
書評
登場人物は、”記者”と”ボランティア活動の従事者”、”国際開発コンサルタント”、その点からも度々メッセージとして、“ボランティア”や”援助”というのは一つのキーワードになってきます。
個性豊かな登場人物によって、とある記者からは、ボランティア活動に向けられる、”偽善だろう”や”実際に日本政府からのODA(政府開発援助)のお金は有効に使われていないのではないか?汚職金のような形で中抜きをされているのではないか?”といったリアルな鋭い批判的声や視線を表現しています。
一方で、ボランティア従事者の登場人物からは、ボランティア活動の重要性、あるいは、ボランティア活動のリアルな現実、マスコミとの対立など、現実を基にしたメッセージも伝えられています。
そして、もう一つの重要な登場人物”国際開発コンサルタント”。
この登場人物の視点は、インドネシアで働く私自身と重なる点や強く訴えかけてくる点が多くあります。
物事をすすめるために、インドネシアに限らず、どの世界でも、ある程度、賄賂であったり、物事をうまくすすめるためのアクションがあります。
実際にインドネシアにおいてはそういった、“正しさ”, “正義”だけではどうにもならないようなことが多々あるということを私自身強く感じます。
過去から見ても、こういった行いは、減りはしつつも今も残っていると感じます。
まさしく、そういった”利権”を得るための明確化されていない裏のやりとり、この部分を批判も込めて”聖域”という言葉でタイトルにかざったのではないかと思います。
つまり、政府開発援助等にまつわるおカネの”利権”を得るための触れられない”聖域”の意義について問題提起をしている小説だと思います。
本当にこの”利権”の”聖域”を守る行いをする必要があるのか?
それを続けているとどうなるのか?
この問いを1人1人欠かすことのできない登場人物を通して、恋愛、結婚、人生そのものを絡めながら訴えかけてくる、伏線回収が見事な小説です。
インドネシア在住やインドネシアに興味がある方には、絶対にのめり込んでしまう一冊になると思います。
もちろんインドネシアを抜きにしても、今後各国との関係性を築いていく上で、おカネがまつわるのはさけられないことで、その点から見ても、とても学びの得られる一冊です。
読者の声
日本が世界に誇れことの一つが世界中に供しているODA額の多さであると思うが、ODAや国際援助の真実の部分に深く迫っている本なのではないかと思う。
今だに多くの新興国では賄賂などの腐敗政治が横行しており、取り締まり切れていないというような記事を目にするが、冷戦時代の開発独裁がはびこっていた時代では、今とは比べ物にならないくらい腐敗政治が当たり前だったろうし、大国としても正義のもとではなく、己の利益のためにそれらを利用していたのだろうと思う。それがある意味時代の要請であったし、当時としては最善であったのかなとも思われる。
一方で、不正や偽善が正義であったという時代を映し出すことで、本当の正義とは何か、という根源的かつ大きな問題を本書は提示しているとも感じられる。
昨年の暮れくらいから多くの新興国で政情不安が起こっており、世界を揺るがしているが、本書はそういった動きにも相通じるものだと思う。
ODA利権に、家族・同僚・恋愛などを絡めたのは、面白い
「利権」というキーワードから経済小説家と思いましたが、その部分は、1割くらいしかなくて、それに、記者である主人公や、インドネシアで亡くなった新聞記者だった憧れの叔父、その他の親戚、同僚などとの人間関係が、絡まりながら展開していきます。経済小説でもなく、恋愛小説でもなく、カテゴリーに分けるのは難しいのでしょうか、その反面、他の小説にはない、面白さがあります。この作者の作品は初めて読みましたが、他の作品も読んでみたいと感じました。
一方、登場人物同士が、お互いに関係があることが後半わかってくるのですが、この部分は、ちょっと都合が良すぎ、不自然に感じました。登場人物が少ないのは、単純で読みやすいのですが、もう少し、増やした方が良いと思いました。舞台となるインドネシアでも、現地でしかわからないことを、もっと細かく書き込んだ方が、現地での展開で、もっと引きずり込まれる気がします。
ODAに絡む利権、汚職の問題はふるくから指摘されてきたことであり、題材にした作品も少なくはない。そこに、NGO、ボランティアにかかわる人間とその心情に踏み込んだところが、3.11大震災後の今、今日的であり、旧来の題材が今日的色彩を帯びている。その意味で、非常に興味深く、面白く読めた。
一方、筆者自身が、東南アジアにおける支援活動に深く関わっていたせいか、この辺りの社会的歴史的背景の記述が実に詳しい。。。が、それが時にストーリー展開のスピード感を鈍らせている印象がある。帯に言うほど「一気に」読ませるものではなくなっている。
最終的に主人公がつかむ新しい人生への展開がやや拙速の印象があるのは、そのような背景記述に比べ、人への踏み込みがやや甘くなった気がしないでもない。
今後作者の、いわば得意でない分野でどのような力量を見せるのか、楽しみに見守りたいと思う。
最後に
いかかでしたでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
インドネシアを舞台にした小説やインドネシアの小説が日本語に翻訳されているものなど、
他にもいくつか紹介させていただいています。
ぜひ下記の記事もご参考にしていただけますと幸いです。
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