インドネシアのことをもっと知りたいなーと思ってるんだけど……。
小説みたいな形式で楽しみながらインドネシアの歴史や各地のことについて知ることのできるものってないかな〜?
そんなあなたには、主人公が現代社会の27歳のIT企業勤務。
というそんな視点から、物語が始まるインドネシアを舞台にした小説はいかがでしょうか?
お!なんだか、ちょっと聞いただけでも気になります!
ぜひ詳しく教えてください。
本の紹介『赤道星降る夜』
概要
真実から生まれた、命の重さを問う人間賛歌。
ブラック企業に追い詰められ多額の借金を背負った達希(27歳)は発作的に飛び降り自殺を図り、15年前に死んだ祖父の霊に助けられる。
祖父は生前心残りの「人探し」を一緒にすることを条件に隠し財産で借金の肩代わりを提案。
そこから祖父の霊とのボルネオへの旅が始まる。
そこで出会ったのは、個性豊かな人々と悲惨な戦争の記憶。
将校でも戦闘機乗りでもない大多数を占めた一般兵士の彼らの戦死とは、飢えや伝染病で命を落とす悲惨なものだった。
やがて一行は赤道の街に到着。
そこには、この旅に祖父が託した本当の目的が隠されていた。
今まで決して口にすることのなかった、「知られざる謀略事件」とは・・・・。そして、そこに隠された,祖父の過去にまつわる真実とは・・・・・。
著者『古内一絵』さんについて
1966年東京生まれ。
2011年『快晴フライング』(ポプラ社)でデビュー。
『フラダン』は第63回青少年読書感想文コンクールの課題図書に。
2017年『フラダン』で第6回JBBY賞(文学作品部門)を受賞
感想
この本が特に面白いと感じたのは、戦争時に大多数を占めた一般兵士の視点での、当時の戦争の様子や状況、心情が鮮明に描写されている箇所です。
終戦ほど曖昧なものはなかった。
自分たちは一体なにと戦っていたのだろうと考えずにはいられなかった。名誉の戦死はどこにもなく、あるのは無念の死ばかりだ。
この言葉。
終戦というものが、実際には明確にその日を限りにして終わるものではなく、実際の戦地では、そのまま生死をかけた戦いが続いていたり、その後も生活が続いていたりと至極あいまいなものであったことがよく分かる一節です。
そして、赤道直下のこの地”ポンティアナック”には、日本軍が起こしたポンティアナック事件の慰霊碑があり、毎年そこで、慰霊祭が行われています。
物語の登場人物がIT会社勤務の27歳男性。
責任や激務に追われて、仕事を辞める選択をできずに自殺をしようと試みたときに、死んだはずのおじいちゃんが語りかけて、間一髪自殺を思いとどまる。
そして、おじいちゃんからあるお願い事をされて、インドネシアに渡る。
そんなことから始まるこのストーリーがなんとも小説を読んだ当時、27歳IT企業勤務でインドネシア駐在中の私には、他人事には思えない親近感を抱きました。
戦争ものの小説とはいえ、現代社会の20代目線を通して進んでいく物語は、とても読みやすく、ついつい入り込んでしまう展開で、ぜひみなさんにもおすすめしたい一冊です。
小説に登場する場所・史実
ポンティアナック事件
ポンティアナック事件(インドネシア語: Tragedi Pontianak)は、第二次世界大戦中の1943年10月23日から1944年8月にかけて、インドネシア西カリマンタンのポンティアナックで発生した、日本海軍の民政部および海軍特別警察隊による住民への弾圧事件。
この事件で、一般住人を含む約2000名が犠牲になったと言われています。
1944年6月28日の日本軍の軍事法廷により47名の死刑が確定し、即日処刑がなされたことが7月1日に現地民政部より発表されたがそれ以外にも少なからずの現地人が正式な裁判無しに処刑されました。
裁判無しに処刑された者を合わせた犠牲者数については2千名から4千名と資料によってばらつきがありますが、当時海軍民政部で通訳として事件の取り調べを行った井関恒夫は1486名という記録を残しています。
カリマンタン(ボルネオ島)
ボルネオ島(英語: Borneo, インドネシア語: Pulau Kalimantan)は、東南アジアの島。
南シナ海(西と北西)、スールー海(北東)、セレベス海とマカッサル海峡(東)、ジャワ海とカリマタ海峡(南)に囲まれています。
インドネシア・マレーシア・ブルネイ、この3か国の領土であり、世界で最も多くの国の領地がある島となっています。
面積は725,500km2で日本の国土の約1.9倍の大きさである。世界の島の中では、グリーンランド島、ニューギニア島に次ぐ、面積第3位の島です。
読者の声
『赤道 星降る夜』というロマンチックなタイトルとは裏腹に、戦争の不条理さを真正面から見つめる重厚な作品です。
主人公は東京のブラック企業で企業ぐるみの不正の生贄にされそうになった達希と、その祖父で下級兵士としてボルネオ島に出征した勉。達希が勉の霊と一緒にボルネオ島を訪問するというファンタジー要素を取り入れることで、現代と戦時中を行きつ戻りつしながら物語が進みます。
勉の霊が達希に求めたのは、ボルネオ島で石野紀代子さんに会わせてほしいということ。彼女は、出征していたとき世話になった日本人入植者とその妻の現地人との一人娘です。紀代子さんを探す旅には、現地で偶然出会った雪音も同行しますが、雪音には霊視の能力が備わっているため、勉さんとも交信が可能。この3人の旅をメインのストーリーとして、その間に勉の戦争体験が織り込まれます。
勉の体験が明らかにするのは、軍隊という組織の徹底した非人間性と、戦争が市井の人々に死と絶望以外の何物ももたらさないという冷徹な事実です。なかでも象徴的なのが、1943年10月から1944年8月にかけて起こったポンティアナック事件。日本の軍部が、対日蜂起の謀議を企図したという理由で現地人を大量虐殺した、悲痛な出来事です。図らずもこの事件と関わることになった勉は、生き延びても重い十字架を背負い続けることになります。
もともと単行本として出版されたときは、『痛みの道標』というタイトルでした。それは物語終盤の、次のような記述に由来します。「祖父たちが、壮絶な痛みの果てに遺してくれた道標。ようやく辿り着き、これからもつなげていくこの場所で、己の無力をそう簡単に認めるわけにはいかないと、達希は自分で自分に活を入れる。」
現代の日本と世界が、私たちを取り巻く社会が、そして自分自身が、この貴重な道標の導こうとしている方向へ向かっているのか、今こそ一人ひとりが考えなければならないと強く思わされます。
歴史の授業では習わなかった戦地で起こったこと。丁寧な取材によるエピソードは、読むことに痛みを伴うけれど、それに対する作者のフォローが細やかです。
『十六夜荘ノート』を読んだ方は、十六夜荘の登場人物のその後を知ることもできます。
文庫化でタイトルが変わっていますが、『痛みの道標』の装丁とタイトルの方が合っている気がします。
最後に
『赤道星降る夜』の紹介はいかがでしたでしょうか?
現代の日本人目線でも読みやすいタッチの物語で、ほんの7,80年前に実際にインドネシアで起きていた日本軍による大量虐殺事件。
インドネシアに住まれている方やインドネシアが好きな方にぜひ読んでもらいたい一冊です。
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