戦後復興のインドネシアと日本の関係、そしてデヴィ夫人をモデルにした史実を元にしたドキュメント・ノベル
1960年代、戦後の日本とインドネシアの復興において、当時の商社マンを主人公にした、お金、政治、女性、国際関係、内戦、、数多くの事実をベースにした小説です。
インドネシアに関わりのある方はより面白く、味わい深く楽しめる一冊です。
個人的書評
2023年現在の日本とインドネシアの関係、 デヴィ夫人、現在のインドネシア、ジャカルタ、、
そんなところを鑑みながら読むとより面白いです。物語の随所に、現在のスディルマン通りが建設される前の話なども出てきたり、当時の大統領官邸の様子が出てきたりと現在の姿と比較すると感慨深いと感じられるシーンが登場します。
また、一国の建国の父(スカルノ大統領)の政治的な面から恋愛の一面まで、とても具体的に描写されているので、このあたりを事実ベースで仕立て上げた小説は他には類を見ないのではないかと思います。
物語は60年前のインドネシアで、当時の商社ビジネスマンの物語。
そしてなんといっても、登場人物の1人であるデヴィ夫人とスカルノ大統領。この二人の間での恋愛的掛け合い、政治的掛け合いが非常に面白いです。
商社に利用されて、インドネシアに送り込まれ大統領の妻になるように送り込まれたデヴィ夫人。
当時の女性蔑視、政治・ビジネスでの女性利用、そんな背景においても負けずとビジネスから政治まで、大統領に屈することなくリードをするような一面も髄所に描写されています。
下巻では、デヴィ夫人が実際に政治的に権力も握っていたような描写や不倫裏話等々。。
それはそれで物語に引き込む展開。
ちなみに主人公は、すでに他界された方ですが、Jクリニックのオーナーであり、ジャカルタのレストランKIRISHIMAのオーナーでもあるようです。 マレーシアでも2-300席規模の飲食店を持っているオーナーで現実社会においても、とても成功を収めたといえる方のようです。
サリナデパートの建設計画や、テレビ局設立、等、大きなプロジェクトを渦巻くお金、女、政治、ビジネス、これまでかというほど、リアルに突っ込んで描かれています。
また、スカルノ大統領と結婚するまでのデヴィ夫人の奮闘、努力、生き様、 全部は肯定できませんが、本当に尊敬するエピソードの数々 そして、辛い日本のご家族の裏話
極めつけは、スカルノ大統領のカリスマ性、そして、取り巻く女性事情。 スカルノ大統領からスハルト政権へ移行する際のデヴィ夫人目線や商社マン目線での描写。
インドネシアに関わりのある人こそ、味わい深い小説です なかなか買えなくなっている1冊なようです。ぜひご一読ください。
神鷲商人(ガルーダ商人)概要
あらすじ
神鷲商人(上)
昭和33年(1958年)、総額803億円にのぼる日本の対インドネシア賠償協定が調印された。
その翌年、日本を訪れたインドネシア独立の英雄スカルノは、内幸町のナイトクラブ「マヌエラ」で19歳の歌手・根岸直美を見初める。
戦後賠償をインドネシアの独立興国に賭けるスカルノと、女を利用して賠償貿易を有利にと企む日本商社の思惑が、彼女の、そして両国の運命を揺さぶって行く。
神鷲商人(下)
スカルノ大統領第三夫人となった直美。
彼女を巻き込んで利権を争う東邦商事と岩下産商。
巨額の金が動き、インドネシアの近代化は進む。
ディアこと直美は、いまや両国の関係を取り持つ存在となった。
だが彼女に群がった日本商社は、危機に現われ国を救うという伝説の神の鷲=ガルーダだったのか、それともハゲタカだったのか。
戦後の賠償貿易を背景に展開された熾烈な商戦を描く長編。
著者について
深田 祐介
1931(昭和6)年、東京生れ。暁星高校を経て、55年早稲田大学卒業。日本航空に入社し、海外駐在員、広報室次長を歴任。83年退社し、作家活動に専念。76年『新西洋事情』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年『炎熱商人』で直木賞を受賞。87年文芸春秋読者賞を受賞した『新東洋事情』以来、アジア情報・分析において、読者の絶大なる信頼を集める。著書に『暗闇商人』『激震東洋事情』『美食は人にあり』『鍵は『台湾』にあり!』(共著)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
作品に扱われたモデル
登場人物
根岸直美(デヴィ夫人)
デヴィ・スカルノ(Dewi Sukarno、1940年(昭和15年)2月6日 – )は、日本生まれでインドネシア国籍のタレント。インドネシアのスカルノ元大統領第3夫人[2]。NPO法人アースエイドソサエティ総裁。株式会社デヴィーナ・ソサエティ代表取締役。2019年7月からはYouTuberとしても活動している。本名及びインドネシア名はラトナ・サリ・デヴィ・スカルノ(Ratna Sari Dewi Sukarno)。旧名及び日本名は根本 七保子(ねもと なおこ)。通称はデヴィ夫人。
参考: デヴィ・スカルノ
富永(桐島正也さん)
桐島さんは1950年代後半から、東日貿易の社員として、インドネシアの戦後賠償ビジネスに関与した。日本を訪問したスカルノ初代大統領にデヴィ夫人(当時・根本七保子さん)を紹介したことで知られる。
60年に来イし、サリナ・デパートや独立記念塔(モナス)の建設などに携わった。
東日貿易から独立後は、ムルデカ新聞の営業・広告の仕事を続ける傍ら、ホンダや三菱自動車のインドネシア進出を支えた。ジャカルタで初めての鉄板焼きとしゃぶしゃぶのレストランをホテルに出して成功を収めた。
次々に、幅広いビジネス展開を行い、ゴルフ場や日本語の通じる病院「Jクリニック」なども経営していた。
川瀬瀧子(金勢さきこさん)
デヴィ夫人の前にスカルノ大統領の愛人としてインドネシアに渡った女性。
元クラブホステスで、賠償金ビジネスを行っていた木下産商によってインドネシアに送られる。
1959年、浴室で自殺しているところを発見される。
参考: 【伝説】知られざるデヴィ夫人 シンデレラ・ストーリーの真相
東邦商事 小笠原(久保正雄さん)
東日貿易社長。この会社は戦後の対インドシナ賠償利権と深く係わり合いがあった。
巨人の長嶋茂雄夫妻の仲人を務めたそうで、政財界にも正通していたようだ。
黄田 駐インドネシア日本大使
黄田 多喜夫(おうだ たきお、191?年[1] – 1998年[2])は、日本の外交官、通産官僚。外務書記官、大東亜省電信課長、香港占領地外事部長、公正取引委員会総務部長、通産省通商局長、外務省経済局長、駐デンマーク公使・大使、駐インドネシア大使、外務審査官、外務次官を務めた。
参考: 黄田多喜夫(Wikipedia)
本堂総次郎(本郷功次郎)
本郷 功次郎(ほんごう こうじろう、1938年2月15日 – 2013年2月14日[1])は、日本の俳優。岡山県岡山市出身。1969年まで大映の主演スターとして活躍。
参考: デヴィ夫人の浮気
特殊降下兵部隊司令官 アリフィン(ベニー・ムルダニ)
ベニー・ムルダニ (Benny Moerdani) こと レオナルドゥス・ベンジャミン・ムルダニ (Leonardus Benjamin Moerdani、1932年10月2日 – 2004年8月29日) は、インドネシアの軍人である。最終階級は陸軍大将。
陸軍特殊部隊、その後は情報将校として功績を重ね、1983年に国軍 (ABRI) 司令官に就任すると、大胆な国軍機構改革に取り組んだ。
参考: ベニー・ムルダニ
会社
東邦商事(東日貿易)
久保正雄さんによって、経営された会社。対インドシナ賠償利権と深く関わりのあった会社。
岩下産商(木下産商)
鉄鋼問屋として㈱木下産商を創業し、戦後、クギ・トタン類を取り扱うなどして業績を拡大、日本最大級の鉄鉱石輸入商社。
その後、木下商店は昭和40年に三井物産に吸収合併。
参考: 木下財団について
その他
サリナデパート
日本の戦後賠償で建設されたインドネシア初のデパート。
“sarinah”はスカルノ大統領の生みの母親の名前からつけられている。
参考: Gedung Sarinah (Wikipedia)
ナツオ宮殿(Wisma Yasoo)
スハルト大統領から贈られた5.6ヘクタールの家。
現在は、Museum Satria Mandala (サトリアマンダラ博物館) インドネシアの軍事史博物館となっている。
参考: Museum Satria Mandala (Wikipedia)
ナイトクラブ マヌエラ (赤坂の有名高級クラブ: コパカバーナ)
伝説の高級ナイトクラブ「コパカバーナ」。テーブルチャージ料は、当時の大卒の初任給が1万円といわれていた時代に、なんと10万円だったという。この店で”プリンセス”と呼ばれていたのが根本七保子さん。のちのデヴィ夫人。
現在は、コパカバーナビルディングになっているようです。
読者の声
題名の商人とはデヴィ夫人のことか?
太平洋戦争後のインドネシアを舞台に日本の商社などが海外支援を名目に金儲け事業にのめり込んでいく。
と、同時に根本 七保子のちにスカルノ大統領の第三夫人になるデヴィスカルノ夫人の物語でもある。
創作作品だからどこまでが事実に近いかは不明だが、かなりの部分は事実に基づいているだろう。
昨今テレビでは人気者のデヴィ夫人だが、当時のことを考えれば過酷な人生だったと推察される。
興味ある作品でデヴィ夫人を知るにはもってこいの作品だろう。
実話に沿ったもので面白かった。
「もしクレオパトラの鼻が1センチ低かったら、世界の歴史は変わっていただろう」と言われるが、「もし直美(デビ夫人)の鼻が1センチ低かったら」、あるいは「もし彼女が歌手でなかったら」日本とインドネシアの関係も今と違ったものになっていたかもしれないし、賠償ビジネスなるものが存在しなければ、彼女がインドネシアに行くこと自体が実現しなかっただろう。このように、国家と個人、歴史と個人の関係に思い至る作品である。そして、この作品を読む前と後では、デビ夫人に抱く印象も違ってくるはずである。エンタテインメント性も高いので、瞬く間に上下巻を読み切ってしまった作品でもある。
あくまで小説の形をとっていますが、ノンフィクションを
読んでいるいるような感じで上下巻とも一気に読破しました。
登場するスカルノ大統領の第三夫人のディアのモデルは
いうまでもなくデビ夫人ですが、彼女の強さの理由がわかるような
気がしてきます。彼女の人生を通して、戦後の日本とアジアとの
関係の原点でもある賠償問題が浮かび上がってきます。
最後に
こちらのブログでは、他にもインドネシア関連の小説のレビュー記事をいくつか書いています。
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