待ってました!インドネシア関連小説の紹介シリーズ!
今回は吉本ばななさんの小説を紹介します!
お!なんだか、気になります!
ぜひ詳しく教えてください。
本の紹介『マリカのソファー/バリ夢日記』
概要
ジュンコ先生は、大切なマリカを見つめて機中にいた。マリカの願いはバリ島に行くこと……。
多重人格の深い悲しみと歓喜の光景を描いた本作は、「マリカの永い夜」として発表されたが、著者の決心により改題し大幅に書き改められた。
さらなる祈りと魂の輝きにみちた小説に一九九三年四月、初めて訪れたバリで発見した神秘をつづる傑作紀行を併録。
著者『吉本ばなな』さんについて
1964年、東京生まれ。
詩人・思想家の吉本隆明の次女。日本大学芸術学部文藝学科卒業。
87年小説「キッチン」で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『キッチン』で第16回泉鏡花文学賞、同年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、89年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。
著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで、93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞の三賞を受賞している。他の著作に『アルゼンチンババア』『王国』シリーズ『デッドエンドの思い出』『イルカ』『ひとかげ』『まぼろしハワイ』『サウスポイント』『彼女について』『アナザー・ワールド 王国その4』など多数がある。
感想
あ、そうだった。”バリの魅力”ってこんなとこだった!
そんな風に思わせてくれた一冊でした。
まず、私のとっても好きなフレーズを紹介させてください。
“バリは不思議な島だ”という登場人物の1人が語ったバリの描写。
大きいものから、小さいものまで。あれ、今のなにかな?っていうものから、うわあ、でかいものがやってくる、っていうものまで。空気が生きているから、地面が力を持っているから、いやすいんだろうね。それに、すごく気持ちのいい存在もいる。山のほうから来る。上品で、きれいで、強くて、かわいくて、すごいやつ。大好きななにか。犬みたいな心の、美しい何か。すごく、すごく昔からいるもの。いちばん大きい椰子の木よりも古いもの。それから、おそろしいもの。海のほうから来る。マリカの親みたいな、でたらめなやつ。でもいる。時々気配を感じる。ぞっとするような感じ。大きくて、大切に思っていることや、ゆずりたくないことをなにもかもちっぽけなことに思わせてしまう、やっぱり昔からいるもの。どっちがいいとか、悪いとかではなくて、ただそういう両方の味があるというか、そういうもの
吉本ばなな. マリカのソファー/バリ夢日記 世界の旅① (Japanese Edition) (Kindle の位置No.520-528). Kindle 版.
なんだか、『見えないもの』まで、脳内の情景に映し出してしまうような、絵画よりも絵画的なフレーズで、抱きしめたくなるような、何度も何度も言葉にしたくなる、ずっと眺めていたい、そんな”ことば”
バリの魅力って、素敵な海や山、自然に恵まれた素晴らしさもさることながら、
”空気が生きている”、”なんだか感じる自分の内面に絡んでくる、入ってくる、何か”
そういったところじゃないかなと思っています。
そして、この文章は、主人公である多重人格の精神疾患を抱える”マリカ”、あるいは、マリカを取り巻く周囲の人間へのメッセージ的な意味を持っているように感じられます。
多重人格という精神疾患を題材にすることでより分かりやすくしているものの、
“ヒト”は誰しも、ココロの中に、”大きなもの”、”小さなもの”、”気持ちのいいもの”、”おそろしいもの”……
そんなたくさんの”ナニカ”の存在に自分自身気づくことってありませんか?
でも、それらはきっと、絶妙なバランスで”溶け合って”いるもので、”良いとか悪い”ではなく、ただそういう両方の”味”がある、そういうものなんだ。
なんだかそういうことを感じました。
“多重人格”というのも、いまネットという世界があることで、人それぞれ、アカウントごとに、あるいは、所属するグループごとに、別のキャラクターを使う(演じる)ということが一般的になっているように感じます。
このあたりをとてもうまく表現されているのが、平野啓一郎さん著作の『私とは何か「個人」から「分人」へ』の中で表現されている”分人”という概念。
まー、そちらの詳しい説明は、リンクを貼っておくことに留めるとして……
例えば、いまやX(旧Twitter)やインスタグラムで複数のアカウントを持っていること自体は、一般的になってきていると思います。”裏垢”とよばれるようなハゲ口のアカウントだったり……
おそらく、そういったものも、“善悪”ではなくて、バランスなんだと思います。
だって、良いことばかり言う人って信じられないじゃないですか。笑
なんだか、そういった”陽陰”で捉えるとすれば、”陰”的な要素は、大きすぎていけないのはもちろんのこと、閉じ込めたり塞ぎ込んだりしてもいけない、んだと思います。
バリは、島全体で、”陽”てきなものも”陰”てきなものも、大きいものから小さいもの、そしてたくさんの種類があって、とにかくそれが”バリという不思議な島”なんだと思います。
むかし、バリで見たマジックアワーと呼ばれる日の沈む時間帯をクタのビーチで見たときの様子を貼っておきます。
なんだか、こんな”イロ”ですら、あたたかそうな色から寒そうな色、赤っぽい色、青っぽい色、そんなたくさんの色の”バランスが大事”なんだと思わせてくれる風景ではないでしょうか?
この本の後半、半分に収録されている、旅行記は吉本ばななさん御一行のバリ観光のリアルが、吉本ばななさんの素敵な感性とともに、表現されていて、『あー、こんなところの光景がきっと作品の一部のあの表現になるんだ』そう思わせるような体験も掲載されていて、改めて作家さんの文章、言葉を通した芸術的な表現の素晴らしさを感じます。
私の拙い文章は、これぐらいにして……。
この一冊を携えて、”バリ”に行きたくなってきた頃ではないでしょうか?
最後にバリ夢日記の方からも、素敵なフレーズを紹介させてください。
短い滞在の旅人にあんなにもすべてをさらけだしてくれたバリよ。私は移動するたびにいろいろな生命体を感じ、自分のなかに息づく自然の気配を確かに感じた。日に日に感覚はとぎすまされた。自分がどんどん自然と親和してゆくのがわかった。決して人を拒まず、しかしなにものにも侵されない。いくらでも与え、しかし枯れたりしない。たっぷりと満ちている。あそこはそういう島だった
吉本ばなな. マリカのソファー/バリ夢日記 世界の旅① (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1863-1867). Kindle 版.
小説に登場する場所
アマンダリ ホテル
吉本ばななさん御一行が泊まられたホテル。
プールについては以下のように表現されている。
濃い緑のタイルが敷き詰められた広いプールは、ふちのところがうまい具合にななめにカットされていて常に水が流れている。そのため、あたかも崖に向かってふちなしの水がプールのラインに沿って浮いているように見える。
吉本ばなな. マリカのソファー/バリ夢日記 世界の旅① (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1493-1495). Kindle 版.
\ ホテルの空き状況をチェック! /
読者の声
完成された世界
この本が、どうしてこんなに好きなのか。
ひとつは瑞々しさ。
もうひとつは完成度の高さ。
美しい起承転結。
何度読んでも同じ風景が鮮明によみがえってきます。
実際のバリよりもバリそのものが描き出されているように感じられ、
作家と言うのは恐ろしいものだなぁと思います。
夢日記のほうも何ともいえない輝きがあって、
きっと著者にとってもこの旅は特別忘れがたい思い出なのではないかと。
素敵です。
ばなな文学の中で異質
小説『マリカのソファー』と
随筆『バリ夢日記』を収録した作品
僕は、実は
彼女の書く小説は好きなんですが
随筆はあまり好きではないのです
が、この随筆は、旅日記ということもあって
現地の雰囲気を味わえる感じが、いつになく悪くない
そして、小説なのだが
多重人格者マリカの心の癒し、を描いたものとなっており
よく恋人/死をテーマに描いている、ばなな文学の中では
良い意味で異質なものとなっており、違ったばなな像が見えた気がしました
と言えど、恋愛的な部分は、コチラも挟んでいるのですが
マリカが、己の多重人格像のオレンジに恋をするというもので
これまた異質な恋愛の形になっています
でも、この小説は、これだけで1冊にしても良かったレベル
ばなな文学の恋人/死のテーマに、少し飽きた方には
ぜひ読んでもらいたい
成長と希望、魂の救済の物語
多重人格の少女マリカ。彼女を見守る魂たちとジュンコ先生。
バリを舞台に美しい文章で綴られる成長と希望、魂の救済の物語。
人はどこへいくの?魂はどこへいくの?
というちっちゃい頃の疑問が読む度よみがえってとけていく。
バリ旅行記では作品に投影されるよしもとばなならしい
愛嬌のある澄んだ目線を垣間見ることも出来
一冊でじっくり楽しめます。
最後に
『マリカのソファー/バリ夢日記』の紹介はいかがでしたでしょうか?
あの”バリ”にもう一度行きたくなる、そんな気持ちにさせてくれる一冊でした。
こちらのブログではインドネシア関連の本を他にもたくさん紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
-
インドネシア関連本
インドネシア関連小説『人間の大地(下)』読書レビュー
-
インドネシア関連本
インドネシア関連小説『マリカのソファー/バリ夢日記 吉本ばなな著』レビュー
-
インドネシア関連本
インドネシアが舞台の小説 インドネシア人作家の本 おすすめ8選
-
インドネシア関連本
インドネシア関連小説『人間の大地(上)』読書レビュー
-
インドネシア関連本
『インドネシア山旅の記』インドネシア関連本 読書レビュー
-
インドネシア関連本
インドネシア語検定 おすすめ中級レベル問題集 | C級・D級対策
-
インドネシア関連本
インドネシア ノンフィクション小説『鯨人(くじらびと)』レビュー
-
インドネシア関連本
『ジャムウの物語インドネシアに伝わる美と健康の遺産』書籍レビュー
-
インドネシア関連本
『帰らなかった日本兵 インドネシア残留元日本兵の記録』書籍レビュー
-
インドネシア関連本
小説『珈琲の哲学』ディー・レスタリ | インドネシア小説レビュー
-
インドネシア関連本
ジョグジャカルタが舞台!インドネシア小説『利権聖域』レビュー
-
インドネシア関連本
デヴィ夫人がモデル!インドネシアが舞台の小説『神鷲商人』レビュー